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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)3号 判決

原告

織笠正喜

外二六名

原告ら訴訟代理人

後藤昌次郎

高橋耕

小野幸治

被告

通商産業大臣

安倍晋太郎

右指定代理人

瀬戸正義

外七名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一第一種大店舗たる本件店舗において小売業を営もうとするジャスコが被告に対し大店法〈編注・大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律〉五条一項の規定による届出をなし昭和五四年九月一八日受理された事実、被告が同法七条一項の規定に基づき昭和五五年一月一二日付け五五仙通産商第一四四号をもつてジャスコに対し、①届出に係る店舗面積(七、五〇〇平方メートル)を六、三九〇平方メートル以下とすること、②届出に係る閉店時刻(午後六時三〇分。ただし年間一二〇日を限度として午後七時)を午後六時三〇分以内とすること、ただし年間六〇日以内に限り午後七時以前とすることは差し支えない、とする本件変更勧告をなした事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、原告らに本件変更勧告の取消しを訴求する法律上の利益があるかどうかについて判断する。

1  原告らは、大店法七条一項の規定による変更勧告は営業許可の実質を有する処分であり、許可という側面において周辺中小小売業者の権利ないし利益を侵害する処分である旨主張するので、まずこの点について検討する。

(一)  大店法は、大店舗の周辺の中小小売業の事業活動の機会を適正に確保し、小売業の正常な発達を図り、もつて国民経済の健全な進展に資することを目的とする(一条)。そして、大店法は、右目的達成のため、大店舗における小売業の事業活動を調整することとし、調整の対象、方法、判断指標、項目、期間等について概要次のように定めている。すなわち、一の建物であつて、その建物内の店舗面積の合計が五〇〇平方メートルを超えるものの新設をする者は、右合計が一、五〇〇平方メートル(都の特別区及び政令指定都市の区域内においては三、〇〇〇平方メートル)以上である場合にあつては通産大臣に、その他の場合にあつてはその建物の所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならず(三条一項)、通産大臣又は都道府県知事は、右届出があつたときは、届出に係る建物における小売業の事業活動について調整が行われることがある旨の公示をしなければならない(三条二項。この公示を以下「調整の公示」という。)。通産大臣の公示に係る建物は、第一種大店舗として通産大臣の調整の対象とし、都道府県知事の公示に係る建物は、第二種大店舗として都道府県知事の調整の対象とし、両者を合わせて大店舗と総称し大店法の調整の対象とする。大店舗においては、調整の公示の日から七月を経過した後でなければ、何人も、新たに小売業を営んではならない(四条一項)。第一種大店舗において小売業を営もうとする者は、その営業の開始の日の五月前までに、住所氏名、店舗所在地、開店日及び店舗面積を通産大臣に届け出なければならない(五条一項。この届出を以下「営業届出」という。)。通産大臣は、営業届出があつた場合において、届出に係る事項が実施されることにより届出に係る第一種大店舗における事業活動がその周辺の中小小売業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがあるかどうかを審査し、そのおそれがあると認めるときは、大店審の意見を聴いて、届出を受理した日から四月以内に限り、届出をした者に対し、届出に係る開店日を繰り下げ、又は店舗面積を削減すべきことを勧告することができる(七条一項。この四月の期間を以下「勧告期間」という。)。通産大臣は、四月内に右の変更勧告をすることができない合理的な理由があるときは、四月を越えない範囲内において、勧告期間を延長することができる(七条三項)。他方、通産大臣は、四月の勧告期間が満了する日前に、営業届出に係る事項が直ちに実施されても、届出に係る第一種大店舗における小売業の事業活動がその周辺の中小小売業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがないことが明らかであると認めるときは、変更勧告をしないことを決定し、その旨を当該届出をした者に通知することができる(七条四項)。通産大臣は、変更勧告を受けた者がこれに従わない場合において、七条一項に規定する事態が生じ、中小小売業の利益が著しく害されるおそれがあると認めるときは、大店審の意見を聴いて、営業届出を受理した日から五月(前記延長がなされた場合は、当該延長期間が満了する日から一月)以内に限り、その変更勧告を受けた者に対し、勧告に係る開店日を繰り下げ、又は店舗面積を削減すべきことを命ずることができる(八条一項及び三項)。通産大臣は、第一種大店舗における小売業者が変更命令等に違反したときは、その小売業者に対し、一年以内の範囲を定めてその小売業の営業の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる(一四条一項)。変更命令や右の営業停止に違反した者は、罰金刑に処する(一八条)。以上のように規定している。

(二)  以上のように、大店法は、大店舗における小売業の事業活動を調整するため、調整の公示の日から七月を経過する前及び営業届出に係る開店日前の大店舗における小売業を禁止している。しかし、調整の公示の日から七月を経過した後で営業届出に係る開店日以降の大店舗における小売業については、これを禁止する規定はない。国民は、本来、営業の自由を有するものであり、これを禁止するためには法律による明文の規定を要する。したがつて、調整の公示の日から七月を経過した後で営業届出に係る開店日以降の大店舗における小売業について、これを禁止する明文の規定が存しない以上、営業届出をなした者はこれを自由に営むことができ、行政庁の許可を要するものでないことは明らかというべきである。

大店法は、それまで百貨店法(昭和三一年法律第一一六号)が規制していた対象を適用範囲に取り込んで、百貨店法を廃止するとともに(大店法附則二条)、その調整対象を百貨店法のそれよりも格段に拡張した法律であるところ、百貨店法は、「百貨店業を営もうとする者は、通産大臣の許可を受けなければならない。」(三条)と規定し、百貨店業を許可制とすることを明らかにしていたが、大店法には、大店舗における小売業につき許可制を採用したことをうかがわせるような規定は何ら存しないのである。大店法は、前記の内容から明らかなように、大店舗における小売業を届出制(届出さえすれば許可なくして営業し得るもの)としたうえ、通産大臣等において、これに対し変更勧告及び変更命令を中心とした調整を行い得ることを規定しているにすぎない。すなわち、右の変更勧告及び変更命令は、店舗面積に関していえば、営業届出に係る店舗面積を一定限度まで削減すべきことを勧告又は命令するものにすぎず、右限度内の営業を許可するという効力を有するものではない。右営業は変更勧告や変更命令をまつまでもなく自由なのであり、変更勧告や変更命令により一部制限を受けるというにすぎないのである。

(三)  原告らは、大店舗における小売業が届出制であるならば、そもそも変更勧告や変更命令の制度は不要であり、営業届出についても営業開始前五月前という期限設定は不要なはずであると主張する。しかし、右小売業の事業活動の調整の方法として、事業活動を禁止した上で許可により禁止を解除するという方法を必ず採用しなければならないものではなく、事業活動の自由を肯認した上で一定の制限を加えるという方法をとることももとより可能であつて、変更勧告や変更命令は右制限の手段として採用された制度である。そして、変更勧告や変更命令による調整は事業活動に制限を加えるものであるから、いつまでもできるということになれば、大店舗における小売業者を際限なく不安定な状態に置き、かつ、これに対し不当な犠牲を強いる結果となるため、大店法は、右調整を原則として開店日までに終了することとし、調整期間確保のために営業届出につき開店日五月前という期限を設定したものであつて、いずれも、許可制を裏付けるものではない。

また、変更勧告は、営業届出をした者に対し、勧告された店舗面積等の範囲内であれば営業を行つても変更命令を受けることのない地位を事実上与える効果を有するということはできるかも知れないが、それは、制限の範囲を一応限定するというものにすぎず、右範囲外の営業を許可するというものではない。

なお、大店法七条四項は、通産大臣において四月の勧告期間が満了する日前に変更勧告をしないことを決定通知することができる旨規定しているが、これは、大店法が開店日五月前の営業届出義務を課していること、特に昭和五三年法律第一〇五号による改正によりそれまでの四月前から右の五月前に延長したこと、そして、その間の大店舗における小売業の営業を一律に禁止していることに鑑み、その営業が周辺の中小小売業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがないことが明らかな場合に限つて、変更勧告の期間を短縮し、開店日を繰上げできる途を開いたものである。すなわち、右の決定通知は、営業届出に係る開店日の繰上げを可能とする効果を有するにすぎず(七条五項)、営業の全面的許可の性質を有するものではない。

また、原告らは、変更勧告も右の決定通知もないまま営業届出から四月を経過すれば、営業を全面的に許可する旨の黙示の行政処分がなされたものとみなすべきであると主張するが、明文の規定をまたないで大店舗における小売業が許可制であると解する結果の不自然な解釈といわざるを得ない。ちなみに、四月の勧告期間が延長され、その間に営業届出に係る開店日が到来すれば、営業届出をした者は変更勧告も勧告期間の経過もまたずに営業を開始できるのである。

(四)  また、〈証拠〉によれば、大店法案を審議した第七一回国会衆議院商工委員会において、通産大臣及び政府委員らは、大店法は従前の百貨店法における許可制から届出制に改めるものであることを明らかにした上、届出制の下においても変更勧告、変更命令の適正な運用によつて許可制と変わらないような調整の実を挙げ得る旨答弁していることが認められ、この答弁は、原告らの主張を裏付けるものではなく、むしろ、大店法が大店舗における小売業につき届出制を採用したことを明らかにしたものというべきである。

判旨(五) 以上、要するに、変更勧告は営業許可の実質を有する処分とはいえないのであり、許可という側面において周辺中小小売業者の権利ないし利益を侵害する旨の原告らの主張は、その前提において失当といわなければならない。

2  次に、変更勧告が営業許可の側面を有するものではないとしても、周辺中小小売業者においてその違法性を主張して取消訴訟を提起する原告適格を有するか否かについて検討する。

(一)  小売事業は、本来、自由競争の関係にあり、既存の小売業者において、新規参入の小売業者の事業活動に対する規制を求むべき権利ないし法的地位というものをもともと有するものではない。もしあるとすれば、それは大店法によつて創設されたものということになる。そして、周辺中小小売業者にとつて変更勧告により自己の具体的権利又は法律上保護された利益が害されるということは、より広範な規制内容を含む変更勧告が出されるという利益を享受し得る権利ないし法的地位を有するにもかかわらず、それが一部否定されるということにほかならないから、大店法の下において、周辺中小小売業者に、一定の要件のある場合には一定以上の規制を内容とする変更勧告又は変更命令が出されるという利益を享受し得る権利ないし法的地位が保障されているか否かを検討する。

(二)  大店法は、前叙のとおり、通産大臣等に、大店舗における小売業の事業活動に対する調整権限を与え、調整の方法として変更勧告及び変更命令の制度を設けたものであるが、第一種大店舗に対する変更勧告に関していえば、変更勧告を出すか否かの判断を通産大臣にゆだねていることが七条の規定から明らかであり、周辺中小小売業者に対しては、変更勧告を発すべきことを求める申請権を付与していない。

(三)  次に、通産大臣において変更勧告を発するか否か、いかなる内容の変更勧告を発するかを判断する際の基準であるが、大店法七条一項は、営業届出に係る第一種大店舗の「周辺の人口の規模及びその推移、中小小売業の近代化の見通し、他の大店舗の配置及び当該他の大店舗における小売業の現状等の事情を考慮して、その届出に係る事項が実施されることによりその届出に係る第一種大店舗における小売業の事業活動がその周辺の中小小売業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがあるかどうかを審査し、そのおそれがあると認めるときは」大店審の意見を聴いて変更勧告をすることができる旨規定し、同法一一条は、変更勧告の運用に当たつては「消費者の利益の保護について配慮し、あわせて、第一種大店舗における中小小売業の近代化その他の小売業の事業活動の円滑な遂行に支障を及ぼすことのないよう配慮しなければならない。」と規定している。すなわち、大店法の定める判断基準はかなり広範かつ抽象的であり、一定の要件が備わつた場合に一定内容の変更勧告を発すべきことが一義的に定まるというものではなく、変更勧告を発するか否か、変更勧告の内容をどのように定めるかは通産大臣の裁量にゆだねられているというほかない。

もつとも、〈証拠〉によれば、「法第七条第一項のおそれの有無の審査基準について」(各通産局長及び沖繩総合事務局長並びに各都道府県知事あて昭和五四年五月一一日付け産局第三六四号通産省産業政策局長通達)は、大型小売業者(一の建物における店舗面積の合計が五〇〇平方メートルを超える店舗を有する小売業者)が入居する第一種大店舗であつて店舗面積が一〇、〇〇〇平方メートル以上のものは大店法七条一項の「おそれ」ありとする等、右おそれの有無の審査基準をかなり明確にしていることが認められる。同じく甲第三号証によれば、大店審は、昭和五四年六月二〇日「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整のための審査方法について」の決定を行い、大店審における審査に関し、大店舗の店舗面積の調整は中小小売業の事業機会の確保の観点からの審査と、消費者利益の確保及び流通近代化の観点からの審査とをそれぞれ行い、これらの審査結果を踏まえ、総合的な判断をし、結論を定めること、中小小売業の事業機会の確保の観点からの審査では、①類似都市比較指標、②占有率指標、③将来性指標、④影響度指標の四指標をそれぞれ求め、審査対象大店舗の周辺の中小小売業への影響をこれらの指標から総合的に判断すること、と決定したことが認められる。これらの通達及び決定は、行政内部における審査基準をかなり明確化し、特に通産大臣が大店法七条一項の規定により大店審に諮問するか否かを決定するに当たつての「おそれ」の有無の判断について具体的基準を定めているが、変更勧告を行うべきか否か、その内容をどのように定めるかについては、これらの審査基準によつても一定の結論が当然に導かれるものではなく、依然として通産大臣の総合的な判断にゆだねられているのである。

その上、大店法の規定自体においても、また、行政の内部基準においても、周辺の個々の中小小売業者の営業の実態等は、審査の対象事項とされていない。

したがつて、変更勧告に関する通産大臣の判断基準の面からも、一定の要件のある場合に一定の変更勧告を求め得るとか、あるいは一定範囲の事業活動を享受し得るという周辺中小小売業者の具体的権利ないし利益を見いだすことはできない。

(四)  更に、周辺中小小売業者の変更勧告に対する異議申立権の有無を考察するに、大店法には右異議申立権を想定した規定がない。大店法七条の規定によれば、営業届出が受理された場合の通産大臣の措置としては、原則四月の勧告期間内に変更勧告をすること、変更勧告をしない旨の決定通知をすること、変更勧告も右の決定通知もしないで勧告期間を経過することの三つがあり得る。もし、変更勧告に対し周辺中小小売業者に異議申立権が存すれば、右小売業者にとつて最も不利な措置である三番目の変更勧告をしない措置に対しても異議申立権が存するといわなければならないであろう。しかし、後者の場合は、通産大臣が変更勧告をなし得る勧告期間内に異議の対象とすべき行政行為が存しないのである。大店法が右の異議申立権を認めたとすれば、周辺中小小売業者の変更勧告申請権とこれに対する通産大臣の勧告期間内の応答義務を規定したはずであり、そのような規定が存しない以上、右の異議申立権は否定せざるを得ない。

したがつて、異議申立権の側面からも、周辺中小小売業者の変更勧告に関する具体的権利ないし利益を導くことは困難である。

(五)  なお、大店法七条は、通産大臣において変更勧告を行おうとするときは大店審の意見を聴くべきこと、大店審においてその意見を定めようとするときは地元の会議所の意見及び申出者の意見を聴かなければならないことを規定し、周辺中小小売業者の意見が会議所の意見又は申出者の意見となつて変更勧告に反映される途を開いている。また、大店法一七条は、変更命令又は営業停止命令についての不服申立てに対する裁決又は決定は公開による聴聞を行つた後にしなければならないこと、聴聞に際しては不服申立人及び利害関係人に対し証拠を提示し、意見を述べる機会を与えなければならないことを規定している。したがつて、周辺中小小売業者にも右聴聞の際に証拠を提示し意見を述べる機会が保障されているといい得る。しかし、これらの規定も、行政に関係者の意見を反映させ、行政判断の妥当性を担保し、適正を期するための規定であつて、周辺中小小売業者に対し一定の変更勧告、変更命令を求むべき具体的権利ないし利益を付与したものと解することは困難である。

判旨(六) 以上のように、周辺中小小売業者には変更勧告の申請権がなく、変更勧告を出すべきか否か、変更勧告の内容をどのように定めるかは通産大臣の裁量にゆだねられ、その判断基準も広範かつ抽象的であり、変更勧告に対する異議申立権も周辺中小小売業者に認められていないことからすれば、大店法は、一般的に周辺中小小売業の事業活動の機会の適正な確保を図るという公益上の目的から、本来自由である大店舗における小売業の事業活動を調整するため、変更勧告及び変更命令という制度を採用したものであつて、個々の周辺中小小売業者に対し、一定の要件のある場合には、一定内容の変更勧告が出されるという利益を享受し得る地位を具体的に保障したものと解することはできない。大店法が個々の周辺中小小売業者に対し具体的権利ないし利益を保障するものでない以上、一定の変更勧告が出され又は出されなかつたとしても、周辺中小小売業者の具体的権利又は法律上保護された利益を侵害するものではないから、個々の周辺中小小売業者に変更勧告の取消しを訴求する原告適格を認めることはできない。

3  最後に、本件変更勧告の取消しを求むべき訴えの利益(狭義)について検討する。

(一)  大店法七条の規定によれば、通産大臣が変更勧告をなし得るのは営業届出を受理した日から四月以内に限られており、右期間内に変更勧告をすることができない合理的理由があるときの期間延長も四月を超えない範囲内に限られているところ、本件の営業届出の受理日は昭和五四年九月一八日であつて、本訴提起日(昭和五六年一月一四日)において既に八月以上を経過しているのである。したがつて、判決で本件変更勧告を取り消しても、被告において更に厳しい内容の変更勧告を発する余地はなく、本訴は訴えの利益を欠くといわざるを得ない。

(二)  原告らは、判決によつて変更勧告が取り消された場合にいつまで変更勧告をなし得るかの点は、法の欠缺の場合に当たるので、条理に従い、取消判決が確定した日から四月以内は新たな変更勧告をなし得ると解すべきである旨主張する。

しかし、変更勧告は、変更命令と相まつて大店舗における小売業の自由を制限する不利益行為であるから、法律が、前叙のように、営業が本格化してから変更勧告及び変更命令の措置をとつたのでは右小売業者に不当な犠牲を強いることを考慮し、また、右小売業者を際限なく不安定な状態に置くことを避けるため、変更勧告をなし得る期間を原則四月、延長しても最長八月と明定している以上、解釈によつてこれを更に延長することは許されない。

なお、原告らは、変更命令の名あて人たる営業届出者が変更命令の取消訴訟を提起し、変更命令が判決で取り消された場合を想定すれば、判決確定の日から四月以内に新たな変更勧告を発し得ると解さなければ不合理である旨主張するが、この場合にいかなる内容の取消判決をなすべきか、あるいは取消判決により行政庁がいかなる措置をとるべきかは別として、右は不利益処分を受けた者の権利ないし自由を回復する場合であるから、不利益の範囲を更に増大させる場合と同日に論ずることはできない。

4  なお、原告らは、大店法案を審議した第七一回国会衆議院商工委員会において、通産大臣等は、変更勧告が抗告訴訟の対象となり、周辺中小小売業者にも原告適格が存する旨明確に答弁しており、大店法は右答弁を前提として成立したのであるから、これと異つた解釈をすることは許されないと主張する。

〈証拠〉によると、政府委員は、右委員会において、変更勧告が出されない場合の不作為は訴訟の対象にならないことを明言しながら、変更勧告、変更命令が出された場合については、両者を峻別しないまま、訴訟の対象となり、周辺中小小売業者にも原告適格が存する旨答弁したことが認められる。変更勧告が出されないということは、周辺中小小売業者側にとつては最も不利な場合であり、その場合に抗告訴訟を提起できず、変更勧告、変更命令が出された場合には抗告訴訟を提起できると解することは、論理的整合性を欠くと評さざるを得ないが、それはともかく、国会における審議内容はあくまで法律解釈の一資料たるにすぎず、裁判所がこれに拘束されるいわれはない。裁判所は、あくまでも国民に対し公布された法律の条文に拘束されるものであつて、右の国会審議を参考とするにしても、大店法の条文解釈としては前叙のように判断せざるを得ないのである。

5  以上の説示によれば、本件においては、原告らは本件変更勧告によつて権利又は法律上保護された利益を侵害されたと認めることができず、かつ、本件変更勧告を取り消してもそれによつて原告らの主張する不利益が救済されることにはならないから、いずれにしても、原告らは本件変更勧告の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者ということができないので、本件訴えは不適法といわなければならない。

三よつて、本件訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(泉徳治 岡光民雄 菅野博之)

別紙 目録〈省略〉

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